公正証書遺言とは、公正証書(内容を公的に証明する書類)として残す遺言のことを言います。
しかし、その概念だけを聞いても次のような疑問が浮かぶ方もいるのではないでしょうか。
「自筆の遺言書とは何が違う?」
「どんなケースで有効なの?」
「デメリットはあるの?」
スムーズな遺産相続を実現するには、事情に合った遺言形式を選ぶことが大切です。
今回は「公正証書遺言の特徴」や「メリット・デメリット」について紹介します。
遺品整理業者として生前整理に携わっている私の知見もまじえて解説しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
そもそも一般的に用いられる遺言書の形式は、「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」の2種類がほとんどです。
「秘密証書遺言」というものもありますが、特殊なケースをのぞいて現代ではほとんど利用されていません。
そのため、ここでは公正証書遺言と自筆の遺言書の違いについて解説します。
公正証書遺言と自筆の遺言書の大きな違いは、その作成方法にあります。
公正証書遺言は、遺言者(遺言を残す人)が公証役場を訪れ、そこで遺言内容を公証人に伝えて作成します。
つまり、実際に公正証書遺言を作成するのは公証人ということです。
公証人は法務大臣が任命した準国家公務員で、公証役場で公正証書を作成・発行する業務を行っています。
公証役場は法務局が管轄する官公庁で、おもに公正証書の作成や管理などをしています。
対して自筆証書遺言は、名前のとおり遺言者が自筆して作成します。
紙とペン、印鑑の3つがあれば作成可能で、遺言書を自宅で保管する場合は特別な手続きも必要ありません。
たとえ自筆でも、遺言者がその全文・日付・氏名を自分で書き、押印するなどの形式に則っていれば、法的な効力を持たせることができます。
遺言書の作り方(書き方)のいろはを解説!2種類の遺言書別・ポイントや流れ
参考:民法第九百六十八条
公正証書遺言は公証役場を訪れて作成する必要があるため、自筆の遺言書よりも作成に手間がかかります。
しかし、それでも公正証書遺言を作成する人は多くいます。
その理由は、次のようなメリットがあるからです。
公正証書遺言は、遺言内容を公証人が代筆する形で作成されます。
公証人は、いわば法務のプロです。弁護士や裁判官などの経験がある人の中から任命されます。
そのため公正証書遺言は書式や内容の不備が生じにくく、遺言が無効になりにくいのです。
自筆証書遺言の場合、遺言書を作成するのは本人のためミスが起こる可能性も高まります。
遺言書は、法律で定められた書式を守っていなければ無効になってしまいます。また、内容が不明瞭な場合もその効力を疑われます。
実際に、書式の誤りなどで自筆証書遺言が無効になってしまうケースも少なくありません。
また、自筆証書遺言の場合、作成時点で十分な意思能力がなかったとされて無効になってしまうケースもあります。たとえば、作成時点で認知症を発症していた場合などです。
その点、公正証書遺言であれば公証人と話をしながら作成するため、意思能力を疑われる心配もありません。
自筆証書遺言を自宅などで保管していた場合、よくあるトラブルが紛失です。
保管場所を忘れたり、まちがって捨てたりといったケースはよくあります。
たとえ法的に有効な遺言書を作れたとしても、相続をする時に存在しなければ意味がありません。
その点、公正証書遺言は原本が公証役場に保管されるため、紛失のリスクがありません。
公正証書遺言は原本以外の控えとして謄本・正本というものを渡されますが、これらを紛失しても原本があるため再発行も可能です。
ただし令和2年7月からは、自筆証書遺言を法務局で保管できる制度が開始されています。
申請して制度を利用すれば、自筆証書遺言の紛失を防ぐことも可能です。
しかし預けるときに簡単な書式のチェックがあるのみなので、内容の信頼性は保証してくれない点に注意が必要です。
自筆の遺言書は簡単に作成できるため、偽造されるおそれがあります。
もし偽造された場合は、筆跡鑑定などを行って本物を立証しなければならないため、非常に手間がかかります。
しかし公正証書遺言であれば、そういった心配はありません。
公正証書遺言は本人確認をしたうえで公証人が作成するため、他人が自分の名前を語って偽造する可能性はゼロに近いでしょう。
公正証書遺言は病気や怪我、障害などで文字が書けない人でも作成できます。
なぜなら遺言書の作成は公証人が行うからです。遺言者は公証人に遺言内容を口頭で伝えれば作成できます。
言語や聴覚に障害がある人でも、手話通訳や筆談をとおして公証人に内容を伝えることが可能です。
また、自宅や病院から動けない場合でも、公証人に出張してもらうこともできます。
これが自筆証書遺言であれば、基本的にほとんどの部分を自筆しなければいけません。
もし他人が代筆したり、パソコンなどで作成したりした場合は無効になってしまいます。
公正証書遺言は作成した時点で法的な有効性が認められているため、遺族が家庭裁判所で検認をする必要がありません。
検認とは、遺言書の存在や内容を明らかにして偽造を防ぐための手続きのことです。
つまり公正証書遺言を残しておけば、遺言者が亡くなったあとに遺族はすぐに遺産相続を始められます。
ご本人が亡くなった後に遺族はさまざまな対応に追われるため、この点は大きなメリットです。
一方で自筆証書遺言を自分で保管していた場合は、検認を行ってから遺産相続をする必要があります。
もし検認をしないで相続を進めてしまった場合、遺族が罰せられる可能性もあります。
とはいえ自筆証書遺言であっても、法務局に保管していた場合は検認をする必要はありません。
ただ、検認が不要だからといって遺言書の法的効力が保証されるわけではない点に注意が必要です。
もし内容に不備や不明瞭な点があれば、無効になってしまう可能性もあります。
遺言書を見つけた場合の取り扱い方とは?正しい開封方法と検認手続きを解説
公正証書遺言には多くのメリットがありますが、いくつかのデメリットもあります。
具体的には、次のとおりです。
公正証書遺言を作成するには、公証役場で手続きを行う必要があります。
手続きは一回だけではなく、次のような手順で複数回しなければいけません。
1. 自分で遺言の内容を考える
2. 公証人と打ち合わせをする
3. 必要書類を集める
4. 証人2名を確保し、作成日を調整する
5. 証人立ち会いのもと書遺言を作成、確認する
これらの手続きを終えるまでには、少なくとも2~3週間はかかるのが一般的です。
基本的に遺言者が公証役場に出向く必要があるうえ、公証人や証人とのスケジュールを合わせる必要があるため、想像以上に時間がかかることもあります。
自作できる自筆証書遺言と比べると、手間や時間はかかると覚悟しておく必要があるでしょう。
公正証書遺言を作成するには、2名以上の証人を確保しなければいけません。
この証人は、遺言が本人のもので本人の意志を表していることを証明するために必要です。
つまり証人がいるからこそ、公正証書遺言の信頼性が確保されていると言えるでしょう。
とはいえ証人になれる人には条件があるため、証人の確保が難しいケースはよくあります。
原則、次のような人は証人になれないと法律で定められています。
・未成年者
・推定相続人(将来相続人になる予定の人)とその配偶者や直系血族
・受遺者(相続人以外の遺産を受け取る人)とその配偶者や直系血族
・公証人の配偶者、4親等以内の親族、書記、雇人
上記のように遺産相続に利害関係のある人は証人になれないため、実際は公証役場や弁護士事務所から紹介してもらうケースもよくあります。
参考:民法第九百七十四条
公証役場で手続きをする以上、公正証書遺言の作成には費用がかかります。
作成費用は財産の金額や相続人の数などによって異なりますが、最低でも次のような費用が発生します。
・公正証書の作成手数料、用紙代:40,000~100,000円
・必要書類の取得費用:2,000~5,000円
また、場合によっては次の費用も必要です。
・証人の紹介費用:15,000~30,000円
・弁護士などへの依頼費用: 100,000~200,000円
・公証人の出張費:30,000~70,000円
もし自筆証書遺言を自作して自宅に保管しておけば、こういった費用はかかりません。
法務局に保管するにしても、3,900円の申請費用だけで済みます。
公正証書遺言の作成費用はいくら?役場・弁護士・証人など項目別に紹介
保管制度を利用して自筆証書遺言を法務局に預けておけば、遺言者が亡くなったときに相続人などへ通知されるように設定できます。
しかし公正証書遺言の場合は、残念ながらそういった通知制度がありません。
せっかく遺言書を作成しても、亡くなった後にその存在が分からなければ遺言の内容を実現できなくなってしまいます。
そのため、あらかじめ相続人へ公正証書遺言の存在を知らせておくか、亡くなったときに遺言書の存在が分かるように手配しておく必要があるでしょう。
最後にもう一度、「公正証書遺言」についておさらいしましょう。
・公正証書遺言は公証人が作り、自筆証書遺言は自分で作る
・遺言が無効になりにくい点は、公正証書遺言の大きなメリット
・公正証書遺言は原本が公証役場で保管されるので、紛失や偽造のおそれがない
・公正証書遺言は家庭裁判所による検認が必要ないので、すぐに遺産相続を開始できる
・手続きに手間や費用がかかる点は、公正証書遺言のデメリットと言える
公正証書遺言の最大のメリットは確実性の高さです。しかし手間や費用がかかるなどのデメリットもあります。
よく考えたうえで、自分に合った遺言形式を選びましょう。
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