「相続対策として生前贈与を考えているけど、そもそも生前贈与って何?」
「家族のために相続税を少なくしたい。相続と生前贈与ってどっちがいい?」
「生前贈与の非課税って何のこと?」
など、相続税対策と一緒に生前贈与を考えることがあるでしょう。
生前贈与とは、生きている間に自分の財産を無償で他の人に譲り渡すことで、相続税対策の一つ。
私は遺品整理士として働いているのですが、相続の相談と一緒に生前贈与についても聞かれることがあります。
そこで今回は「生前贈与とは?」「贈与と相続どっち?」「気になる注意点・ポイント3つ」をお伝えしていきましょう。
目次
冒頭でもお伝えしましたが、生前贈与とは生きている間に自分の財産を無償で他の人に譲り渡すことをいいます。
生前贈与の基本として、生前贈与の手続きと流れ、非課税に関することをお伝えしていきましょう。
簡単に生前贈与の手続きと流れをまとめました。
1.贈与者(贈与する者)と受贈者(贈与を受ける者)の間で贈与契約を交わす(口約束でも有効)
2.贈与契約の履行(贈与契約の履行にあたり、対象となる財産の引き渡し)
贈与契約についてはまた後ほどお伝えしますが、贈与契約書で書面に残しておいたほうが望ましいでしょう。
生前贈与の対象と方法
対象となる主な財産と、どのように贈与するのか、その方法をまとめました。
・動産(現金・家財など) → 引き渡し
・不動産(土地・建物) → 引き渡し・登記名義人の変更
・預貯金 → 名義人の変更
・株式 → 名義人の変更(株券の引き渡し)
不動産の登記に関しては、専門的な知識などが必要なため、司法書士など法律の専門家に相談してみるといいでしょう。
生前贈与で気になることといえば、やはり贈与税でしょう。
生前贈与には、一般的なやり方で110万円以下の贈与なら非課税と決められています。
贈与税についてまとめました。
・その年1年分(1月1日~12月31日)の贈与額が課税対象
・課税対象から基礎控除額(110万円)を差し引いた金額が課税される
・贈与税の計算式:(贈与価格-110万円)×税率-控除額
贈与税のシミュレーションは、また後ほどお伝えしていきましょう。
ちなみに不動産を譲り渡す場合、贈与税だけでなく不動産取得税も発生します。
どれくらい税金が発生するのか確認しておかないと「生前贈与をされたが税金を払えない」となりかねません。
他にも「生前贈与の非課税特例」を紹介した記事もあるため、ぜひ参考になさってください。
この章では、生前贈与のやり方の暦年贈与、さらに「相続と生前贈与はどちらがお得か?」の疑問を解説していきましょう。
生前贈与にはいくつか方法がありますが、一般的なやり方として暦年贈与があります。
暦年贈与とは、1年単位(1月1日~12月31日)で課税され、110万円以下の贈与なら非課税となるやり方です。
暦年贈与の暦年課税を使った、贈与税のシミュレーションをしてみましょう。
一般贈与財産用(兄弟間の贈与、夫婦間の贈与、親から子への贈与で子が未成年者の場合)だと、以下の速算表を使います。
【一般贈与財産用】(左:基礎控除後の課税価格 中:税率 右:控除額)
・200万円以下:10% なし
・300万円以下:15% 10万円
・400万円以下:20% 25万円
・600万円以下:30% 65万円
・1,000万円以下:40% 125万円
・1,500万円以下:45% 175万円
・3,000万円以下:50% 250万円
・3,000万円超:55% 400万円
(平成27年以降の速算表を使用)
特例贈与財産用(祖父母や父母などの直系尊属から、その年の1月1日時点で20歳以上の子・孫などへの贈与)だと、以下の速算表を使います。
【特例贈与財産用】(左:基礎控除後の課税価格 中:税率 右:控除額)
・200万円以下:10% なし
・400万円以下:15% 10万円
・600万円以下:20% 30万円
・1,000万円以下:30% 90万円
・1,500万円以下:40% 190万円
・3,000万円以下:45% 265万円
・4,500万円以下:50% 415万円
・4,500万円超:55% 640万円
(平成27年以降の速算表を使用)
ちなみに特例贈与以外はすべて一般贈与になります。
国税庁にある贈与税の計算例は以下のとおり。
【500万円の一般贈与を受けた場合】
・贈与税の計算式:(贈与価格-110万円)×税率-控除額
・基礎控除後(110万円)の課税価格:500万円-110万円=390万円
・贈与税額の計算:390万円×20%-25万円=53万円
税率とシミュレーションの参照・参考:国税庁:国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
贈与税の計算方法について、お分かりいただけたのではないでしょうか?
さて「そもそも相続と贈与では、どっちが納税にお得?」と、気になる問題が残っています。
結論からいえば、相続と生前贈与は財産の額と贈与の期間によって、損かお得か変わってきます。
相続と贈与は、税率が異なるため「相続のほうが損」「生前贈与のほうがお得」と言い切れません。
ではなぜ財産の額と贈与の期間によって、損かお得か変わってくるのでしょう?
相続税と生前贈与を使った税金のシミュレーション
税金のシミュレーションとして、以下の状況を想定しました。
・家族構成:夫・妻・子ども2人
・夫の相続財産:5億円
・10年間に渡って子ども2人に生前贈与したとする
・(※1)配偶者の税額軽減特例を適用
・(※2)相続開始前3年以内の贈与財産の相続財産への加算は考慮しない
(※1 被相続者の配偶者に対して、1億6,000万円以下の法定相続分、もしくはそれ以上の金額であれば、相続税がかからないというもの
※2 「相続開始3年以内の贈与だと、相続財産として課税対象になる」というもの)
以下、3つの想定だと税金は以下のとおりです。
1.【生前贈与しない】
・税金の合計:6,555万円(相続税のみ)
2.【子ども2人にそれぞれ毎年110万円を生前贈与】
・生前贈与:2,200万円(贈与税0円)
・相続財産:4億7,800万円(相続税6,088万円)
・税金の合計:6,088万円
3.【子ども2人それぞれ毎年500万円を生前贈与】
・生前贈与:1億円(贈与税970万円)
・相続財産:4億円(相続税4,610万円)
・税金の合計:5,580万円
参考までに、相続税非課税と相続税の税率は以下のとおりです。
【相続税非課税】
・500万円×法定相続人の数
【相続税の税率】(左:法定相続分に応ずる取得金額 中:税率 右:控除額)
・1,000万円以下:10% なし
・3,000万円以下:15% 50万円
・5,000万円以下:20% 200万円
・1億円以下:30% 700万円
・2億円以下:40% 1,700万円
・3億円以下:45% 2,700万円
・6億円以下:50% 4,200万円
・6億円超:55% 7,200万円
参照・参考:国税庁:国税庁No.4155 相続税の税率
見ていただくと分かるように、2より、3の500万円を贈与し続けたほうが一番納税負担が軽くすんでいます。
決して「非課税の110万円分を贈与しているからOK」ではないと、お分かりいただけたのではないでしょうか?
つまり、相続と生前贈与は以下のことがいえるでしょう。
・財産が多い人ほど、保有財産の残し方は計画的におこなう
・生前贈与と相続を上手に使うことで、納税負担を軽くできる
また保有財産によっては、生前贈与のみすることで納税負担が軽くなるケースもあります。
人によって保有財産や相続人は異なります。
財産など多い人ほど税理士など法律の専門家に相談してみましょう。
この章では、生前贈与の気になる注意点・ポイントを3つお伝えします。
1.生前贈与をしても贈与者(贈与する者)の生活資金は確保できるのか確認しておこう
2.受贈者(贈与を受ける者)は贈与者(贈与する者)から贈与を受けていることを証明する必要がある
3.相続開始3年以内の贈与だと、相続財産として課税対象になる
順番に見ていきましょう。
贈与者(贈与する者)は、生前贈与をしても生活資金をきちんと確保できるのか、よく確認しておきましょう。
というのも、生前贈与はいったん贈与をすると返してもらえないためです。
いったん贈与すると返すことはできない
厳密にいうと生前贈与は、口頭(口約束)と書面(贈与契約書の作成)で少し異なります。
・口頭(口約束):贈与者は履行が完了するまで契約の撤回ができる
・書面(贈与契約書の作成):撤回できなくなる
口頭は気軽にできますが、税務署など第三者への証明ができず、トラブルになる可能性も否めません。
書面で贈与契約書を作り、生活資金の確保ができてから生前贈与をおこないましょう。
贈与契約書の見本は、こちらを参考になさってください。
参照・参考:(リンクPDF)千葉銀行:千葉銀行 贈与契約書
受贈者は贈与者から贈与を受けていることを証明しましょう。
どういうことかというと、税務署から生前贈与と認められないと、(※)名義財産と見なされる可能性があるためです。
※ 名義財産とは他人名義ではあるが、実際の所有者は名義人以外になっている財産のことです。
税務署から名義財産と見なされると、それまでおこなってきた生前贈与にもまとめて相続税が発生します。
そこで贈与契約書にて、税務署に贈与と証明できる材料を作っておきましょう。
贈与契約書と贈与の証明についてまとめました。
【贈与契約書について】
・贈与者と受贈者の互いの合意をしたうえで作成する
・毎年贈与のたびに、贈与契約書を作成すること(第三者から見ても贈与と認識できるようにする)
・贈与契約書は2通作成する(贈与者と受贈者が1通ずつ保管)
【贈与の証明】
・お金の移動が分かるように、贈与者から受贈者へ口座振替などを使う
・受贈者名義の預貯金口座通帳・印鑑などは、受贈者自身が管理する
・毎年、確定申告する
生前贈与は証明をしっかりしておきましょう。
「相続開始3年以内の贈与だと、相続財産として課税対象になる」という決まりがあります。
例えば以下のように、亡くなる3年前まで生前贈与をおこなっていたとしましょう。
3年前:2018年に500万円贈与
2年前:2019年に500万円贈与
1年前:2020年に500万円贈与
今年:2021年に死亡(相続の発生)
上記の場合、2018年、2019年、2020年と、亡くなる過去3年間におこなった生前贈与は、まとめて相続財産として見なされます。
つまり「『1,500万円(500万円×3)+残された相続財産』が相続税の対象となる」ということです。
これは、非課税分の110万円を生前贈与していても同じですので、注意しましょう。
なお各年で払った贈与税は差し引いて計算されるため、二重で課税されることはありません。
3年たてば無効になるため、生前贈与は早いうちからしていきましょう。
生前贈与についてお伝えしてきました。
最後に、生前贈与についてまとめましょう。
・生前贈与とは、生きている間に自分の財産を無償で他の人に譲り渡すこと
・生前贈与の一般的なやり方は暦年贈与
・相続と贈与は財産の額と贈与の期間によって、損かお得か変わってくる
・生前贈与は「相続開始3年以内の贈与だと、相続財産として課税対象になる」などの注意点がある
生前贈与は、上手な利用で相続税の課税対象を減らせます。
計画的に上手な生前贈与で相続人に財産を渡していきましょう!
ところで私の所属する『クリーンケア』では、生前整理と遺品整理のご相談を受け付けています。
また今回取り上げた生前贈与のように、相続に関するご相談も、もちろんかまいません。
クリーンケアは大阪に限らず、奈良、兵庫、京都、和歌山、滋賀と関西エリアを中心に幅広く対応中です。
相続に関することや遺品整理に関することなど、ぜひクリーンケアにお知らせください!